全ての想いが集った場所。2019年3月8日。
誰もが夢のような光景だったと口を揃える、そんなひと時があった。
わたしはただぼうっと、さいたまスーパーアリーナに立っていた。
聖地とされながらも、誰も近寄らない地がひとつだけあった。
I-1アリーナ。さいたまスーパーアリーナだ。
七人のアイドルが全国への道を切り拓くきっかけをくれた箱であり、WUGを含むたくさんのアーティストが集うフェス会場の定番で。
そして、ほんの一握りの人気者たちだけが独り占めできる夢のアリーナ。
WUGの4thツアーの折、大宮公演の隣では絢爛なシンデレラ城が煌めいていた。
ちょっとした興味本意で冷やかしに行った記憶があるが、わたしは思わず圧倒されてしまった。
WUGはこうはなれない、この道のままでは永遠に敵わない、と。
この気持ちは、ついに最後までわたしの中で消えずに残り続けたしこりだ。
きっとみんな、馬鹿で無謀な挑戦だと思っただろう。
わたしはそう思った。
悲しい結果を生むだけだと嘆いた。
しかし、わたしはひとつ忘れていた。
ワグナーは最後まで“諦めない”人たちだった。
多くの知人を連れてこようとする人、少しでも興味を持って貰おうと日々話題を供し続ける人。
思い思いのやり方で、最後まで彼女たちを支え続けようとした人たちがいた。
いつしかわたしは、そんな人たちを見ないよう、目を反らし始めた。
足掻いても踏ん張っても、叶わないものは叶わない。
傷が深まるだけだ、と。
これは最後の最後で、彼女たちを支え続けることを怖がってしまった、そんなひとりの人間の懺悔である。
さいたまスーパーアリーナは、彼女たちにとって決して大きすぎる箱などではなかった。
七人の歌声はほんの昔より格段に力強く、隅々まで届けんとする気迫に満ち溢れるものだった。
ダンスやライティング演出も然り。
いつもの2000人規模のホールステージで見る彼女たちより遥かに遠いが、そんな距離で見る彼女たちは、むしろ大きな存在感と見ごたえを放ちつつ向かってきた。
そしてそんな彼女たちを満席で迎えるべく、声を上げ続けたファン達がいた。
あの場にいた全ての人たちが、彼女らの最大最後の夢を叶えんと努力し、やっと実現したその瞬間が紛れもなくあそこにあったのだ。
そんな純粋な夢と想いの結晶を前に、わたしは立ち尽くすしかなかった。
彼女たちを狭い箱に押し込め、やれこのくらいがちょうどいい、わかる人だけわかれば良いだなどと。
あの七人の力を最後まで正直に信じることが出来なかったわたしは、かつて一人の男が去ったあの時で、時間が止まってしまった「彼ら」の姿と重なるではないか。
彼女たちは、そんな小さな器ではなかった。
WakeUp,Girls!というユニットですら、もはや足枷となっているのかもしれない。
彼女たちの“原点”を大切にしてほしい。
でも彼女たちを縛るものなら、もういらない。
好きに人生を歩んでほしい。七人の人生はこれからも続く。
きっとそこにいつでも、“ふるさと”を大切にする想いは残り続けるだろう。
そうある限り、彼女たちが生きていく道そのものが『WakeUp,Girls!』の物語の続きを紡ぎ続けるはずだ。
わたしは彼女たちの、全ての可能性を肯定していきたい。
出来るかどうかは分からない。
また疑ってしまうかもしれない。
だが、そうあり続けることで、わたしはこれから“悔い”を果たしていくことにする。
そう、わたしは何だかんだ、まだまだファンをやめられそうにないのだ……。
だって、視界のどこかに彼女たちが居るのが、当たり前になってしまったから。