きっかけ。~2014年
「俺らの同級生が声優受かったらしいね」
「ああ、あの人でしょ?」
「話したことないけど」
仙台の北にある雪深い山の上のキャンパスで、私はそんな噂を耳にしたことを覚えている。
まだアニメも始まる前、それが私とWUGの最初の接点だった。
(へえ、そうなんだ。仙台が舞台で、仙台の子が出てる。面白そう)
私はその頃アニメが好きになり始めたばかりであり、声優やら作画やら、そんなものはよくわからないまま、純粋に楽しみな気持ちを抱きながら友人と食事と会話に花を咲かせる。
ーーひとり際立って拙い声優がいると思った。
まさか彼女がその“同級生”だとは思わなかったがーー
アニメ『WUG!』の評判は、それはもう散々なものだった。
監督炎上。作画崩壊。棒。だるい。
なんだか故郷が否定されてるようで辛い。だが、否定できる理論を持ち合わせてなどいない。
モヤモヤ、モヤモヤとしながらそれでも……
私は、『WUG!』を見切ることは出来なかった。
銭湯も病院もスキャンダルも沿岸部もしんどくて見ていられないのに、目が反らせない。
きっとここで目を反らしてはいけない、そんな気がしたのだ。
アイドルは生きた人間だ。
暮らしがあって、家族がいて、アイドルをやるきっかけや狙いもバラバラ。
そんなところに人間たちの生きているニオイを感じた。劇伴と美術の美しさに、仙台のまちの空気さえも。
街並みや人、時間……きっとこの作品は今(当時)の仙台の“そういうところ”を残して伝えたいのだろう、そう見えた。
だからきっと、私は目を反らせなかったのだ。
だがこの頃は、私はアニメ『WUG!』にしか興味がなかった。
WUGのコアである“ハイパーリンク”を味わい、アニオタからワグナーに堕ちていく過程は、また先の話。