回顧録。七つの星に変わる。

“忘れることが怖いから 少しずつ話をしよう”

ろっけん。2018年①

人生有数の無理をして行ったイベントがある。
東北ろっけんソロイベントツアーだ。

上司にも正直にわぐの話を打ち明け、休みたいと頼み込んだ。
お陰で3月の休暇はすべてソロイベントになり、5~6連勤と遠征を繰り返す体力勝負となった。
お金もかかる。
雪道で事故する危険もある。

それでも私は、なるべく全てを見ておきたかった。
実際全ては叶わなかったが、5箇所9公演を回ることができた。

私はWUGに迷いを感じていたし、7人全員なんて追いきれないのは分かりきっている。
だから全てに目を通して、この先の応援相手を見定めようと思ってのことだ。


遠く秋田の地で見たのは、降り積もる雪、綺麗な城下町。美味しいお酒。
田中美海の圧倒的な歌の飽和攻撃、そしてWUG!への愛着。
いまやあちこちで活躍する彼女が、最後に帰る場所だと嬉しそうにWUGを語った。


“あの日付”に郡山で見たのは、黙祷を捧げるまち。
そして吉岡茉祐の歌唱力と構成力。
彼女のソロイベントは、単独のイベントとして頭ひとつ抜けている。
昼と夜の片方参加でも両方でも、どちらでも楽しめる味付けの差分はお見事。
はて、吉岡茉祐のバラードを聴いたことはあるだろうか。
聴いたことないよって人。
もう一段階深く彼女に惚れるよ。


翌週は、いわきの地でイオンコラボによるチャリティーイベントも行われた。
常磐道を走り、黒いビニールの山と“ひとけ”のない山間の村を横目にし、ぞわぞわと身体が強ばった。


海とともに育ち、海に飲まれたまち、石巻
片山実波や『TUNAGO』でも縁のあるこの小さな港町に、永野愛理はささやかな花を咲かせた。
ライブハウスはあまりにも小さく、一度たりとも彼女の姿を見ることが叶わなかったファンもいるだろう。
だが、彼女はそのような一人ひとりすら愛し、声をかけて送り出してくれた。


盛岡に凱旋した奥野香耶は、信じてついてきたファンを手のひらの上で転がし揺さぶり追い詰めて、とことん骨抜きにした。
彼女の故郷のひとつである盛岡は、しかして彼女の舞台装置として使われたのだ。
この公演の衝撃度については、私は「同じ目にあってみな」としか説明することができない。
各自、レポートを漁ってみてほしい。


高木美佑は聖地MACANAを任され、好き!楽しい!やりたい!という彼女の笑顔が詰まった、おもちゃ箱のようなソロイベントでトリを楽しく畳んだ。
MIXグルグルなんでもアリの、アニクラのようなハチャメチャ空間がWUGに存在できるのは、きっと彼女が主役の時だけ。



さて、東北をぐるりと回ったわぐなーたちが最後に行き着いたものこそ、わぐらぶ仙台バスツアーである。

正直、5万って……と思いつつも勢いで参加した。
(秋保グランドホテル貸切、館内放送、チャーターバス、ライブと考えるとやっぱり……)

でも、私は楽しかった。

「陽だまり」といったかな、食堂での夕ご飯。
宮城の地物、お寿司や牛タンのビュッフェだ。
見渡す限りわぐなーさんしかいないという摩訶不思議空間に、見知らぬオタクと腹を抱えて笑った。
同室のオタクが「牛タンうめぇ!マジ日本に生まれて良かった!」と感動していたのが我がことのように嬉しかったし、実はその牛タンを焼いてたのがわぐなーさんだったのも面白かった。


こんな場面もある。
制服姿の可愛らしい売り子さんがご当地サイダーを売っていた。
よく見るとWUGの缶バッジをたくさん装備している。
サイダーを買うとチェキ撮影してもらえるという。
少し気恥ずかしかったが、やってみた。

……人生初チェキ、めちゃめちゃ幸せな顔で写真に写ってしまったよ。

恥ずかしながらあとで知ったことだが、彼女は『あらあらかしこ』という地元の情報番組に出演している、渡辺花さんという超アイドル好きのモデルさんであった。


館内放送をわぐちゃんがジャック。
ケーブルテレビで見るわぐちゃんねるは、感動の高画質(ニコ生さん……)。
カラオケボックスに向かう私達が何故か生で映されたり。
高木美佑さんのクソコール、高木美佑さんの自爆ネタ、高木美佑さんの……こほん。
自由奔放に跳ね回るわぐちゃんたちの空気感は、やはりここにしかないものだと感じた。


二次会もあった。秋保の静かな山奥に、MOGRA店長によるガンガンのアニクラが生まれた。

これは幻のイベント。
多くは語らないし、事前のアナウンスと色々違う内容に不満を覚えた方もいるだろう。
私は幸運にも、これに立ち会うことができた。

(なんであなたたち出てくるのwwwという話。)

東北各地で歌われた幻のソロ曲を全て聴けた。
実質ソロイベ全通。

SEVENTH HAVEN。
この曲がカバーされる機会はこの先絶対に来ない。
心からの自慢だ。


さて、アニクラの後はそのままお風呂タイム。
イベント会場からそのまま風呂へ直行し、そのまま部屋でふかふかの布団に入る。
こんな幸せが他にあるだろうか。
私は知らない。

ーー“汚いTUNAGO”のエピソードは、知らなくていい領域だ。ーー

そのような形で、ツアーの一日目は幕を閉じた。



明くる日。
ねむねむのわぐちゃんたちと行うラジオ体操で一日が始まった。

同室のオタクたちと再会を誓い、再びのバス旅。
バスの車内で見せられたものは、忌々しい5年前の映像。
車が、人間が、家が、街そのものが、波に飲まれる光景だ。
私は何度となく見てきた映像だが、何度見ても語る言葉が見つからない。きっと、何歳になっても。

それを見た後で私達が降り立ったのは閖上の港。

そこに街はなく、土ばかりが盛られている。
だが、閖上には朝市があった。
魚や地物を売る屋台が並び、好きなものを買ってBBQをするというレジャースポットだ。
とっかんの建物しかないが、家族連れで賑わうここには、あの5年前を感じさせない強さを感じた。


そして目玉イベント、WUG5周年ライブ。

今まででいちばんの長丁場。
ぜいたくにも選ばれた500人だけの、最高の空間。
あの場でわぐちゃんたちが見せた光景を、決意の言葉を、私はいまだはっきりと覚えている。

ひと月かけて巡った東北の地を線で結んだら、北斗七星になった。
あたため続けた新曲、Polarisの本当の初披露。

5年目という“WakeUpGirls!”の誕生日をみんなで祝った。
まだまだわぐは続く。
やりたいことはたくさんある。
彼女たちは決意をもってそう語った。

そうだ、私もまだまだ見たいものばかりだ。
そして、まだまだ知らないものを一緒に見せてもらいたい、あげたい。

ソロでお仕事を始める子もじきに出てくるだろう。
だが、彼女たちにはわぐがある。
最後にまた帰って来て、もっと楽しいことを見せてくれるだろう。
そう、思っていたのだ。